酒類業界で今までに例のない「樽熟成古酒の再蒸留」
泡盛はタンク熟成・甕熟成など熟成方法の違いによって様々な香り・味わいを楽しむことができるお酒ですが、
ウイスキーやブランデーなどのブラウン・スピリッツのように「樽熟成」させた泡盛も、そのバニリーな香りや樽由来の芳醇な味わいが多くの消費者に愛されています。
一方、皆さんは世界的に人気のメキシコの蒸留酒・テキーラの世界で近年「クリスタリーノ」や「クリスタルアネホ」などと呼ばれるスタイルが注目されていることをご存知でしょうか?
樽熟成を行った「アネホ」や「エクストラ・アネホ」と呼ばれるテキーラの色素を活性炭による濾過や再蒸留を行うことで透明にしたスタイルです。
濾過や再蒸留によりただ色が透明になるだけでなく、樽由来の渋みなどが取り除かれることによる滑らかでスッキリとした味わいが人気を博し、近年メキシコやアメリカでブームとなっています。
shimmerではこれまで、様々なアプローチで「今までにない泡盛」に挑戦してきました。
今回、貴重な樽熟成古酒の泡盛を再蒸留することで樽熟成泡盛の香りと味わいを濃縮すると共に、
滑らかでスッキリとした「今までにない味わいの泡盛」をつくることができるのではないかと考え、菊之露酒造へ協力を求めました。
想定外の困難
1992年の発売以来、多くの泡盛愛好家から愛されるロングセラー商品「菊之露古酒サザンバレル」。
菊之露酒造で唯一、樽貯蔵した琥珀色の古酒で樫樽の華やかな香りと、菊之露らしいまろやかで甘い風味が特徴です。
今回のプロジェクトでは、サザンバレルに使用される原酒の一部である新樽のオーク樽熟成9年古酒を再蒸留することとなりました。
しかし、「樽熟成古酒の再蒸留」は単純に樽熟成古酒を再蒸留するだけでは「今までにない味わいの泡盛」として完成させることができず、想定外の困難が伴うことになりました。
事前に試留器を使用して樽熟成古酒の試験再蒸留を行ったところ、強烈な溶剤香、強い末垂臭(油っぽく焦げた様な香り)、ガス臭、苦みなどのような特徴を持った、非常にオイリーでクセの強い原酒が出来上がったのです。
このままの酒質ではとても商品化することは難しい……
悩んだ我々はウイスキーなどの蒸留で行われる「ミドルカット」という技法にヒントを得ました。
長期間の樽熟成を行うウイスキーでは蒸留の際、初留(ヘッド)と後留(テール)の部分を取り除き(カット)、ハートと呼ばれる最も安定した酒質の中留部分のみを熟成にまわします。
樽熟成泡盛を再蒸留する際にも、この「ミドルカット」を行うことで好ましい香味だけを凝縮することができるのではないかと考えました。
贅沢なミドルカット
今回、我々は樽熟成古酒再蒸留原酒に求める酒質を「樽熟成泡盛の風味を残しながら、華やかでスッキリとした酒質」と定めて、蒸留設計を行いました。
通常泡盛では、華やかな香りの成分が多く度数も高い初留の部分をカットすることはほとんど行われません。
しかし、ガス臭の原因となるアセトアルデヒド、根菜系の香りの原因となるフーゼル油などの成分もまた初留の最初の部分に多く含まれる為、
敢えてヘッドのカットを菊之露酒造に提案しました。また、末垂臭の原因となるフルフラールは蒸留液の度数が25度前後からより多く含まれはじめるとされている為、通常よりもかなり高い度数である25度での後留のカットを提案しました。
ただでさえ、貴重な樽熟成古酒を蒸留することで総量が減少してしまうことに加えて、ミドルカットを行うことで歩留まりが極端に少なくなってしまうリスクがありました。
しかし、菊之露酒造の製造を統括されている下地専務と今回の製造責任者を務められた高宮氏との協議の中でGOサインをいただき、
今回の再蒸留では初留を蒸留開始から30秒カット、後留を25度の時点でカットするという贅沢なミドルカットを行うことになりました。
樽熟成古酒の再蒸留にかぎらず、泡盛の再蒸留自体が菊之露酒造にとってはじめての挑戦です。
500Lの樽熟成古酒を張り込んだ蒸留器の加熱を開始すると、もうもうと蒸気が立ち込めはじめ芳醇な樽熟成古酒の香りが工場中に充満しました。
通常の蒸留よりも、もろみ(今回は樽熟成古酒)の温度上昇が激しく、蒸溜液の度数の下がり方も激しい慌ただしい蒸留作業となりましたが、
初留のカットが終了した後はじめて流れ出した蒸留液はこれまでの泡盛では考えられない程華やかな香りの酒質であり、菊之露酒造の皆さんも大満足の出来栄えでした。
樽熟成泡盛への全く新しいアプローチ
結果的に今回蒸留した500Lの樽熟成古酒は100L程度の原酒となりました。
原酒の量が5分の1にまで減少するという、今までにない非常に贅沢な造りの泡盛になったと言えます。
適度な加水により香りが開き、冷却濾過でしっかりと磨かれ完成した#14菊之露サザンバレル樽貯蔵9年古酒再蒸留酒は、
樽熟成古酒の香りを残しながら今までにない華やかな香りと滑らかな口当たりの泡盛に仕上がりました。
樽熟成泡盛はウイスキーに比べて「光量規制」という大きな縛りを製品化の際に受けています。 これにより、通常の樽貯蔵泡盛はそれそのもののみで出すことができず、タンクなどで貯蔵した別の透明な古酒をブレンドすることで樽からの色を薄める必要があります。 ここで樽熟成泡盛の再蒸留原酒をブレンドに使用することで、樽熟成酒の本来の風味を引き出しつつ、光量規制に順守した魅力的な泡盛を製品化する全く新しいアプローチを生み出しました。
樽熟成泡盛はウイスキーに比べて「光量規制」という大きな縛りを製品化の際に受けています。 これにより、通常の樽貯蔵泡盛はそれそのもののみで出すことができず、タンクなどで貯蔵した別の透明な古酒をブレンドすることで樽からの色を薄める必要があります。 ここで樽熟成泡盛の再蒸留原酒をブレンドに使用することで、樽熟成酒の本来の風味を引き出しつつ、光量規制に順守した魅力的な泡盛を製品化する全く新しいアプローチを生み出しました。
今回のshimmer#14 菊之露サザンバレル樽貯蔵9年古酒再蒸留酒の発売に先駆けて、「沖縄の産業まつり2023」菊之露酒造ブース及び
「沖縄ウイスキー&スピリッツフェスティバル2023」にて、今回のプロジェクトで製造した樽熟成泡盛再蒸留原酒を使用した「菊之露サザンバレルクリアブレンド」が発売され好評を博しました。
泡盛・焼酎業界のみならず、ブラウン・スピリッツとホワイト・スピリッツの垣根を飛び越えた大きな挑戦となった『shimmer#14 菊之露サザンバレル 樽貯蔵9年古酒再蒸留酒』。
是非その手にとってご賞味ください。
是非その手にとってご賞味ください。