10年以上前から泡盛業界から姿を消した泡盛1号酵母の復活
1988年に新里酒造で泡なし酵母である泡盛101号酵母が分離されるまで、多くの酒造所では高泡を形成する泡盛1号酵母が利用されていました。 この泡盛101号酵母の誕生により、90年代から泡盛1号酵母から泡盛101号酵母への移行が始まり、2000年代にはほとんどの酒造所が泡盛101号酵母へ切り替わったと聞きます。 近年では忠孝酒造さんが旧忠孝蔵ブランドで泡盛1号酵母仕様の泡盛を数量限定で販売しましたが、2024年現在、泡盛業界で20年以上働く製造者の方でも泡盛1号時代の様子は知らないというケースも多くありました。
当時を知る製造者に話を聞くと
「もろみタンクから恐竜の首のように泡がはみ出していた」
「泡を潰す用の回転する機械があった」
「泡盛101号酵母よりも泡盛1号酵母が良い香りをしていた」
と今の製造現場からは想像できない話や泡盛1号酵母への述懐が伺えます。
そこでshimmerでは現在市場にはない泡盛1号酵母で泡盛を造ってみようではないか、ということで泡盛1号酵母の泡盛造りを始めました。
当時を知る製造者に話を聞くと
「もろみタンクから恐竜の首のように泡がはみ出していた」
「泡を潰す用の回転する機械があった」
「泡盛101号酵母よりも泡盛1号酵母が良い香りをしていた」
と今の製造現場からは想像できない話や泡盛1号酵母への述懐が伺えます。
そこでshimmerでは現在市場にはない泡盛1号酵母で泡盛を造ってみようではないか、ということで泡盛1号酵母の泡盛造りを始めました。
黒糖酵母の泡盛や三日麹で知られる松藤さんに製造を依頼
松藤さんの定番商品である黒糖酵母の『赤の松藤』は、フランスで行われる品評会であるKura Masterでも2022年・2023年連続でプラチナ賞を受賞。 その他にも『三日麹』の製品など、その技術力に裏打ちされた味わいで県内外でも多くのファンを抱えています。今回のテーマである『泡盛1号酵母』をどこで行うか考えた時に、そんな技術力のある松藤さんに打診しました。 松藤さんからは快く実施の返答があり、専務の崎山さんからは製造に向けて様々な資料を用意していただきました。
また、製品スペックを検討するにあたり、折角昔の泡盛酵母を利用するのであれば黒麹菌も1901年に同定された日本最古の焼酎麹菌であるイヌイ株を使いましょうという提案もあり、黒麹菌は秋田今野商店さんのイヌイ株、そして酵母は泡盛1号酵母と類を見ない造りになりました。
見つからない酵母、台風6号による遅延
大まかな製品のスペックが決まり、今回の最大のポイントである泡盛1号酵母を手配する段階で最初の課題に直面します。 泡盛1号酵母が見つからない、という大問題でした。 通常、酒造所は泡盛101号酵母を組合から手配していますが、既に利用されなくなった泡盛1号酵母は組合にも保管されておらず、県内の泡盛製造に関係する機関に連絡しても見つからなかったのです。 最終的に広島県にある独立行政法人酒類総合研究所に保管されていることが分かり、酒類総合研究所から手配する運びとなりました。
しかし、酵母の手配が済んだと思った矢先、沖縄県に台風6号が襲来します。 県内でも多くの地域が類を見ない大停電となり、物流を含め本州にも多大な影響を与えました。 その影響が酵母の手配にも及び、仕込みスケジュールの予定が当初よりも2ヶ月ほどズレ込むという結果となりました。
酒母造りから行う泡盛1号酵母
泡盛101号酵母は乾燥酵母となり、パン作りで利用されるドライイーストのように粒状になっています。写真右上のような容器に保管され、利用するときも水に戻して使用する為、比較的扱いやすくなっています。
一方、泡盛1号酵母は乾燥酵母ではなく、液体の状態で納品され酒母作りから行うという手間がかかる作業があり、今回はその様子を撮影させていただきました。
酒総研から手配した1号酵母を松藤さんにて予め培養したものが上のフラスコの中身です。 そして、この培養した酵母を麹・水と組み合わせることで酒母作りを行います。
こちらの寸胴鍋に入っているものが麹となり、早速酵母を入れていきます。 酵母投入後は、温度計を見ながらお湯を投入し、お玉で撹拌していきます。
最終的に撹拌が終了した酒母がこちら。
近くで見てみると、このような感じです。甘酒のような見た目でした。 ここで気になるのが、中身の米麹は黒麹菌由来なのに酒母が白いことなのですが、その秘密が松藤さんの麹作りにありました。
イヌイ株の五日麹による製麹
今回の製品については、黒麹菌はイヌイ株を選択しています。 松藤さんは過去の産業まつりでも『inui1901』を販売しており、その時も同じイヌイで5日間の製麹期間を設けていました。
当時も五日麹という数字に驚く声も周囲で聞こえていたのですが、松藤さんによると期間は目的ではなく結果論になるそう。 というのもイヌイ株自体が気温の影響を受けやすいらしく、松藤さんの考えるベストな品質で製麹できる時期もあるそう。そのイヌイ株を最適な状態で製麹すると五日麹になるのだそう。 そして、その松藤さんの麹は他社の麹と比べると白い仕上がりになっていました。
汲水歩合140%で仕込み開始
酒母作りから数日後、仕込みが開始されました 今回は汲水歩合140%とつめているので蛇管も液面から露出している部分が多くあります。 そして、製麹の白さがよく分かるのが、『shimmer#1 常盤 汲水歩合130%』の時のもろみの色味との違い。
これがshimmer#1のもろみの色味なのですが、多くの酒造所のもろみ同様、黒麹由来の灰色がかったグレーな色合いになっているのがわかります。
松藤さんのもろみは表面にズームインしても分かるように白いもろみとなっていました。
泡あり酵母のはずが泡は起こらず
さて、今回の泡盛1号酵母は“泡あり酵母”と呼ばれ、泡を形成する特性となっていましたが、結論として泡の形成はありませんでした。
もろみを撹拌すると多少泡立ちますが、通常の泡盛101号酵母と同様の様子です。 ここで考えられる可能性としては
・1号酵母が保管のされている途中で変異した
・製造技術、製造設備が当時と比べて向上した
・気温といった外的要因
といったことが考えられますが、原因はわかりません。結果としては、アルコールの生成もあるものの、泡は出なかったということでした。 ただ、泡あり酵母のデメリットである「泡が出ること」が解消されたのであれば、今後1号酵母を使うのもありなんじゃないんだろうかと思った次第ではあります。
・1号酵母が保管のされている途中で変異した
・製造技術、製造設備が当時と比べて向上した
・気温といった外的要因
といったことが考えられますが、原因はわかりません。結果としては、アルコールの生成もあるものの、泡は出なかったということでした。 ただ、泡あり酵母のデメリットである「泡が出ること」が解消されたのであれば、今後1号酵母を使うのもありなんじゃないんだろうかと思った次第ではあります。
1ヶ月の発酵期間を経て蒸留へ
2023年の産業まつりの翌日、松藤さんで五日麹イヌイ株・1号酵母・汲水歩合140%というスペックで仕込んだもろみを蒸留しました。
カット度数は17度、最終的な着地は47度という度数に収まりました。そして今回のshimmer#18では無加水の原酒状態でリリースすることとなります。なお、濾過に関してもできるだけ粗い、保安濾過の仕様となりました。 今では泡盛製造の現場から消えてしまい、沖縄県内でも手に入れづらい状況となってしまった泡盛1号酵母。そんな貴重な酵母で仕込みつつ、松藤さんの技術力・製法で仕上げられた特別な泡盛をお楽しみください。