泡盛の原点(オリジン)とは?
「琉球王国時代に飲まれていた泡盛はどのようなお酒だったのか?」 新たな泡盛の可能性を模索し、様々な挑戦的泡盛を企画していく中で我々は素朴な疑問にぶつかりました。 穀物の粟を原材料の一部として使用した"粟盛(あわもり)"、琉球王国時代泡盛の原材料として使用されていたと考えられている"沖縄在来米"、一度は途絶えた泡盛の伝統的製法シー汁浸漬法……長い沖縄の歴史の中で、戦後失われていった泡盛たち。 忠孝酒造との"泡盛"と"粟盛(あわもり)"2種類の酒造りに挑戦するプロジェクトのはじまりは、泡盛の原点(オリジン)とも言うべき古の泡盛を、現代の技術力で可能な限り再現したいという思いからでした。
沖縄唯一、テロワール泡盛専門蒸溜所「月の蒸溜所」
泡盛の原点に迫る為に、我々は忠孝酒造に協力を求めました。 2023年に沖縄県唯一のテロワール泡盛専門蒸溜所「月の蒸溜所」として生まれ変わった、沖縄本島で一番小さな蒸溜所は、地釜甑による伝統的な米蒸し、自社製の甕を使用した甕仕込み、沖縄本島唯一の地釜蒸溜器など可能な限り伝統的な泡盛作りを再現することのできる設備を持っています。
テロワールとはワインで主に用いられることの多い、原料が育てられる土地の気候や土壌の個性、地形などの特徴から生まれる「原産地特性」を指す概念です。 忠孝酒造は「沖縄テロワール泡盛」を“沖縄県産米を原料として造られた泡盛”と定義しています。
「月の蒸溜所」では泡盛業界全体の新しい挑戦の一つとして、生産者の顔が見える、生産地域のはっきりした原料米を使用した泡盛の製造にこだわっています。それぞれの原料米のテロワールを表現する泡盛を目指されているのです。
「月の蒸溜所」では泡盛業界全体の新しい挑戦の一つとして、生産者の顔が見える、生産地域のはっきりした原料米を使用した泡盛の製造にこだわっています。それぞれの原料米のテロワールを表現する泡盛を目指されているのです。
沖縄を代表する米どころ「羽地田袋(ハネジターブックヮ)」のひとめぼれ
名護市羽地地域は琉球王国の時代から米どころとして知られています。その中でも「羽地田袋(ハネジターブックヮ)」と呼ばれる田園地域は、1735年に名宰相として知られる蔡温によって改修され、その後も沖縄県下有数の米どころとして稲作が続けられてきました。現代では、羽地田袋では「羽地米」として甘味・ツヤ・うま味・香りのトータルバランスが抜群のブランド化されたひとめぼれが栽培されています。「羽地米」は、炊きあがりはふっくらモチモチとして甘い味わいで、農産物検査による品位の検査では例年1等米となっている高品質な米です。沖縄のテロワールを表現する原料にこだわる中で、今回のプロジェクトではこの「羽地米」を原料米としました。
シー汁浸漬法
シー汁浸漬法は昭和30年代後半までは、どの酒造所でも一般的に行われていた伝統的な泡盛の製法です。原料米を洗わずに15時間~20時間、「シー汁」と呼ばれる乳酸菌などの微生物によって酸性状態となり独特なにおいを発生するようになった浸漬液に漬け込みます。
一度は近代化と共に姿を消したシー汁浸漬法ですが、忠孝酒造によって研究され現代に蘇りました。研究の結果、シー汁の中の乳酸菌などの微生物の働きによって、原料米の表面を多孔質に分解し米蒸・製麹などの工程が行いやすくなるとともに、もろみの汚染が少なく醗酵時の温度の管理がしやすくなることが分かっています。また、シー汁浸漬法で造られた泡盛は通常の泡盛と酒質が異なり、まろやかで濃厚な甘い味わいと、高い含み香が特徴とされています。今回のプロジェクトでも、伝統的な泡盛の製法であり戦前の泡盛の象徴的な技術であるシー汁浸漬法を使用しました。シー汁浸漬法らしい、甘く濃厚な味わいにご期待ください。
戦前の黒麹を目指して
現代の泡盛造りに使用する黒麹は、種麹メーカーが育種・培養し販売している種麹を使用して製麹を行います。泡盛業界では、アワモリ株とサイトイ株と呼ばれる2種類の違った特性を持つ黒麴菌の株を各酒造所のオーダーによってブレンドした種麹が最もよく使用されます。
一方、戦前の泡盛作りでは種麹は状態の良い麹の一部を次回の製麹の際にとっておき、種麹として使用する「友種」と呼ばれる方法が用いられました。分離・培養された単菌の種麹が存在しない「友種」で製麹を行っていた時代には様々な株の黒麴菌が酒造所に住み着いていたことが知られています。
一方、戦前の泡盛作りでは種麹は状態の良い麹の一部を次回の製麹の際にとっておき、種麹として使用する「友種」と呼ばれる方法が用いられました。分離・培養された単菌の種麹が存在しない「友種」で製麹を行っていた時代には様々な株の黒麴菌が酒造所に住み着いていたことが知られています。
今回、多様な株の黒麹菌が混在した時代の麹の味わいを、可能な限りのリアリティを持って表現する為に、 石川種麹店のアワモリ株・サイトイ株・イヌイ株そして、鹿児島の河内源一郎商店の河内菌株、計4種類の黒麴菌をブレンドして製麹を行いました。 通常行われることのない特別なつくりの麹、無事に製麹が終了するのか心配でしたが結果的にしっかりと破精こんだ美しい麹に仕上がりました。
保安濾過仕上げ
通常の泡盛は余分な油分や雑味を取り除き、より洗練された酒質に仕上げる為に、「冷却濾過」などの濾過工程を行います。 しかし、戦前の泡盛は濾過の技術がまだ発達しておらず、より原料由来の香りや油成分がしっかりと残った酒質だったと考えられます。
お酒の味わいに直結する濾過の具合に関する基準は酒造所によって様々であり、どの程度の濾過なら"粗濾過"といった統一された基準は存在しません。今回shimmerでは「目に見える浮遊物等を取り除き、各メーカーが人体に影響がないと判断するなかでの最も粗い濾過度合」を"保安濾過"と定義し、可能な限り粗い濾過での仕上げを目指しました。
忠孝酒造は古酒に関しても洗練された味わいの酒質が特徴で、通常の商品は比較的しっかりとした濾過がかけられています。 原料由来の穀物の香りとオイリーさをダイレクトに感じることができる保安濾過仕上げの忠孝は貴重な1本となります。
「月の蒸溜所」の基準となる特別な“忠孝”
沖縄のテロワールを余すところなく表現した「月の蒸溜所」の基準となる特別な1本。忠孝酒造の技術の粋を詰め込んだ泡盛です。そのまま楽しんでもよし、粟盛と飲み比べてもよし、古酒づくりの仕次用としてもオススメの自信作です。是非一度、ご賞味ください。