泡盛が誕生したといわれる琉球王国時代、その歴史のほとんどは、王族や士族だけが愉しめる嗜好品としてのものであった。その歴史の中で泡盛文化は磨かれ、比類ない価値へと進化していった。「銭蔵のカギは家来に渡しても、酒蔵のカギは家来に渡すことは無かった」と言い伝えられるほど、100年、200年と熟成を重ねた泡盛は貴重で、ただの酒ではなく、「その家の格」とも言うべき存在にまで昇華したのだ。
陶器の酒甕での保存
当然、琉球王朝時代には、泡盛を入れておくほどの大きなガラス容器は存在しないので、必然、陶器の酒甕での保存という事になる。首里三箇でのみ製造を許された貴重な泡盛。その貴重さは、製造に失敗したら死罪とされるほどのものであったという。そんな宝石にも代えがたい泡盛を、出来るだけ長く保存しようと人々は知恵を凝らしたに違いない。いつしか人々は「焼き締め」による甕の強化と「仕次(仕次)」による永続的な熟成保存方法を編み出し、今日に至るまでの泡盛文化を育んできたのだ。
それから時は進み、太平洋戦争の惨禍で貴重な数百年熟成の泡盛は絶えてしまったが、泡盛の製造方法は現代にも脈々と伝えられ、いまだに進化を続けている。しかしこの21世紀の現代でも「陶器の甕」は使われているのだ。
甕熟成の面白さ
割れやすく、それでいてそれなりに値の張る陶器の甕が、なぜ現代でも使われているのか。それは「甕による熟成の面白さ」が有るからではないだろうか。自宅で泡盛を甕熟成させている知り合いがいる方はぜひその方に「なぜビンやステンレスの容器ではなく陶器の甕で熟成させるのか」聞いてみると良い。きっと博物館の学芸員の様に、豊富な知識と見解を披露してくれるだろう。「ただの陶器ではないか」。いやいや、その「ただの陶器」の個性たるや千差万別。土の違い、焼きの違い、形の違いで熟成具合が大きく変わるのだ。マンガンが多いとこう、鉄分が多いとこう、というようにまさに「模倣の壷」の様に泡盛を色々な酒質に変化させてくれるのだ。
そんな甕貯蔵を施した銘柄をいくつか紹介したい。
識名酒造 時雨甕貯蔵 25度
まずは首里の酒、識名酒造の時雨甕貯蔵25度。そもそも古風味豊かな時雨を甕貯蔵しているというのだから、もはや琉球王朝時代の泡盛の味と言っても過言ではないだろう。
山川酒造 珊瑚礁甕貯蔵 43度
そして古酒と言えば山川酒造であるが「珊瑚礁甕貯蔵43度」はヴィンテージとシリアルナンバーが印字されており、毎年の味の変化も楽しめるコレクターズアイテムだ。
津嘉山酒造所 國華3年古酒 43度
また津嘉山酒造所の「國華3年古酒43度」は甕番号が記載されており、甕による味の違いを楽しむ事が出来る。何番が自分好みなのか探るのもまた楽しい。
瑞泉酒造 瑞泉古酒 43度
そして老舗の瑞泉酒造からも「瑞泉古酒(甕貯蔵)43度」がリリースされており、こちらも風格漂う酒質となっており、ぜひ一度は試してみたい逸品だ。