泡盛が他の酒と決定的に違うアドバンテージを持つとするならば、それは「仕次」の奥義があるからだと私は思う。
仕次とは、基本的には熟成を重ねた泡盛にそれよりも若い泡盛を注ぎ足し、永遠に熟成に耐えられる酒質を保つことであるが、味の方向性を調整するという側面も併せ持つ。早い話が「自分好みの泡盛を創る」という事である。
シェリー酒のソレラシステム等が仕次に近いが、あくまでメーカーが出荷前に行うことで、個人が仕次をすることは無い。「個人がお酒をカスタマイズする」という発想。これは泡盛文化独自の事なのだ。我々の祖先はなんと酒飲みな事か!
仕次を始めるにあたって最初に行うことは、まずは親酒となる泡盛を決めて欲しい。できれば「40度以上」の「荒濾過」仕様の泡盛が良い。
恩納酒造 萬座原酒 47度
ではいくつか仕次用としてお薦めの泡盛を紹介したい。まずは恩納酒造の「萬座原酒47度」だ。豊かな香りとうま味を併せ持つ萬座。原酒の時はなんと荒々しいことか。しかし、この荒々しさが熟成を経ると、香気成分・うま味成分へと変化していくのだ。泡盛マニアの間で信仰の深い「泡盛のベストは47度」という指標に最も近い原酒と言えるだろう。
北谷長老酒造 北谷長老仕次44度
つぎに紹介するのは北谷長老酒造の「北谷長老・仕次44度」だ。言わずと知れた人気商品の「長老」だが、もちろん仕次用の泡盛もリリースしている。44度という、酒税法ギリギリの高度数でリリースすることによって、出来るだけ長期間の熟成に耐え、また熟成に必要な「栄養分」とも言うべき成分を豊富に含んでいる。まさにこれから熟成泡盛を育てようという方にピッタリである。
忠孝酒造 忠孝原酒マンゴー果実酵母仕込 44度
熟成によって増える代表的な甘い香りの成分「バニリン」の元となると言われている「4-VG」が通常の泡盛の4倍含まれている泡盛が忠孝酒造の「忠孝原酒・マンゴー果実酵母仕込44度」だ。泡盛は使用する酵母によって味わいが全く違ったものになる。このマンゴー酵母はイメージ通りの仕事をやってくれる。つまり、甘くてトロピカルフルーツの様な香りを醸し出してくれるのだ。早く熟成の効果を味わいたい方にお勧めの銘柄だ。
松藤 崎山の原酒 50度
とにかく手間暇をかけて作られ、泡盛造りの王道を行くのが松藤。条件が揃った時のみにしか作れないという「崎山の原酒50度」はまさに長期保存、仕次の為に造られた一本だ。三日麹・長期もろみ・遮光の為の袋包みと黒色ビンと、これでもかというくらい徹底した仕次用のボトルだ。複数本購入し、一部はそのままビンで熟成させ、のちに甕酒が減った時にこれを仕次に使うと良い。
咲元酒造 咲元荒濾過 44度
もう一つ、注目のボトルが、2021年に移転操業を開始した咲元酒造の「咲元 荒濾過泡盛44度」だ。那覇市首里から恩納村山田に移転した際に、泡盛独特の臭みを取り除いた酒質に変更。あの独特な香りが苦手な方へ受け入れられつつあるが、やはり昔ながらの酒質を好むファンは少なくない。そこで「仕次用」として荒濾過で熟成する成分をたっぷり残した製品を開発。コアなファン層や、今まで咲元の酒で仕次をしてきた方々に歓喜をもって迎えられた酒である。
正統派の瓶熟成かロマンの甕熟成か
このECサイトに荒濾過や40度以上の泡盛を選べるので、お好きな銘柄をチョイスして欲しい。次はビンで熟成させるか、酒甕を買ってきてそれで熟成させるか。ビンでの熟成はそのメーカー独自の味の方向性で熟成を見せてくれるし、甕熟成では思いもよらない方向に熟成することもある。 「正統派のビン熟」を選ぶか「ロマンの甕熟」を選ぶかはあなた次第だ。
選択が済んだ後はその容器に泡盛を注ぎ1年ほど熟成させてみよう。そして一年後、どんな味になっているか、アルコールは飛んでいないか少し抜き取って味見をしてみよう。その時に抜き取る量は、全体の20%以内に抑えたい。去年より美味しく育っている泡盛を味わった後は仕次だ。今回抜き取った分量と同じ分量の新酒を足してあげよう。そうすることで、熟成でうま味に変化した成分を補え、また次の一年への活力になるのだ。